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官兵衛縄張りの中津城

(その4 〜人質の鶴姫〜)

 さて、黒田家に人質として出されていた宇都宮鎮房の娘・鶴姫は、磔の杭を打ち込む音を聞き、「なかなかに、きいて果てなん、唐衣、我がために織る、はたものの音」という辞世の句を詠んだ。

[意味:「きいて(聞いて)果てなん」が「城井が果てる」という意味で、「我がために織る、はたものの音」が「私を磔にするために打っている杭の音」という意味である。]

 後に鶴姫の辞世の句を聞いた黒田官兵衛は、豊臣秀吉に鶴姫の助命を願い出ると、豊臣秀吉は鶴姫を哀れんで、助命を認めた。釈放された鶴姫は、尼となって城井谷の山奥に住み、城井一族の冥福を祈りながら天命を全うしたというが定かではない。
(主に ブログ "あらすじと犯人のネタバレ 「軍師・黒田官兵衛(黒田如水)」"より引用)

■■新作歌舞伎「斑雪白骨城」■■

 2003年の新作歌舞伎で「斑雪白骨城」が上演された。その中の主要登場人物に鶴姫、黒田如水、中津城、富来城が舞台となって登場した。

 国立劇場三月新作歌舞伎公演
「斑雪白骨城(はだれゆきはっこつじょう)」
2003年3月8日〜24日国立劇場 主演 中村梅玉 片岡孝太郎
(1995年国立劇場新作歌舞伎脚本入選作 )
作:岩豪友樹子 演出:中村梅玉 演出:国立劇場文芸室

あらすじ:
 安土桃山時代末期、豊前国(現在の大分県)の平定を目論む武将・黒田孝高(後に如水)は、地元の豪族・宇都宮鎮房を謀殺します。鎮房の娘・鶴姫は父の屍を前にしても毅然とした態度で振舞い、その気高さに如水は強烈に惹かれます。鶴姫は、如水を父の敵 と憎悪し、その命を狙い続けますが、いつしか如水を慕う自らの心に気付き、愕然とします。

 時が流れて関ヶ原の戦いの頃、如水の前に、落ちぶれた鶴姫が現われ、築城中の中津城の人柱に自らを立てるよう迫ります。その 鶴姫の真意とは、そして、如水が下した決断は・・・。

 天下取りを夢見る如水と誇り高い鶴姫の凄絶な恋物語を、梅玉の如水、孝太郎の鶴姫でお送りします。

ということで この新作歌舞伎の観劇記を列記しよう。

序幕 豊前、中津城
  宇都宮(城井)鎮房は 黒田長政と娘鶴姫の婚礼に中津城へ 小姓1人を伴い、招かれていた。黒田官兵衛は酒宴の折を見て 部下に鎮房を忙殺させた。そこに駆けつけた鶴姫は婚礼は謀策と思い知ったが、父鎮房が広津川原で晒し首にされると聞き、せめて首化粧をさせるよう要求、官兵衛は鶴姫の17歳とは見えぬ気高さ、清さに一人の娘の運命を狂わせたことへの罪の意識が交錯して・・・ 

 一方、供の宇都宮家臣は 長政率いる黒田兵のため、合元寺の白壁を朱に染めて斬り死にした。城井谷城は後藤又兵衛率いる軍勢により、陥落、嫡男朝房も討ち死にした。

第二幕 第一場 合元寺門前
 前場より2年後、如水(隠居して家督を長政に譲っている。)が家臣母里太兵衛らと 宇都宮一族武士(もののふ)の菩薩を弔いに合元寺門前に来ていた。ところがやにわに1発の銃弾が如水の肩先をかすめる。

 鶴姫と小山田新之助が狙撃したが、失敗し、二人は母里太兵衛らに捕らえられ、新之助は両目を斬られ失明する。
 如水は鶴姫に新之助と夫婦となり、肩寄せあって生きよと再度命を助けるが、三度目に会った時は許さぬと言い捨て合元寺門内に入る。

 鶴姫は このうえは宇都宮一族の怨念、魑魅魍魎となって黒田に災いをなさずにおくべきか、この白壁を宇都宮の血で染め上げるほどに・・・と新之助を助け花道へ入る。

 舞台は無人となり、合元寺白壁が浮かび上がるが、しばらくして中央に血が滲みだし、最後は壁一面赤く染まる。

第二幕 第二場 凶首塚 
 ・凶首塚 (夢の場) 
  乱れ咲きたる花の香に誘われ来る鶴姫の前に さまざまな丈の鬼百合が咲き乱れるその中から 父・鎮房が現れ懐かしさのあまり手を取り合って鶴姫は喜ぶが鎮房が消えると今度は如水がゆりの中から現れ、鶴姫が父の敵と懐剣で切りかかるが押さえられ抱きかかえられ、憎しみと恋心の葛藤、恋慕の気持ちが高まる様子。

如水が百合の中に消え、鶴姫は如水の名を呼ぶが、如水の"鶴姫、三度は許さぬ、許さぬぞ"の声が・・・・"

 ・凶首塚 (塚の場) 
  合元寺の場から10年後、季節は9月初旬、豊前宇佐の宇佐八幡に近い凶首塚と呼ばれる祠で小山田新之助と鶴姫は暮らしていた。そして 物乞いをしながら如水を待ち伏せすることの十年・・・。

  豊臣秀吉が死んで世の中がまた騒々しくなり、豊後でも大友義統が 豊後に戻り、捲土重来、再興を期して 石垣原にて如水と決戦すると聞き及び、旧来からのよしみで義統に如水の首を上げたるときには宇都宮の恨みをはらさせて貰うと言う鶴姫に新之助は 鶴姫の心の中に如水恋しやの思いがあることを看破し、如水への恨みを捨てよと・・・

第三幕 第一場 富来城をのぞむ陣営
 石垣原の戦いにて大友義統を降伏させた如水は後回しにしていた安岐城を無血開城させ、残る国東半島の東端にある富来城を包囲して3日目、大砲などで脅し、再度降伏勧告をすべく、家臣に指示して、母里太兵衛との雑談で中津城天守櫓の建築で土台を築こうにも穴を掘ると水が噴出し礎さえ築けぬは天下は取れぬの徴(しるし)かと自若しているところに 家臣が女乞食をひったたせて来た。

これなん鶴姫の変わり果てた姿に如水は家臣を遠ざけて対面、「大友義統が如水の首をあげてくれると思うたがそれもなさず。中津城は父・鎮房が謀殺された城、その天守櫓に妾を人柱に立てよ。その櫓の礎に水神の贄として築きこまれるは残されたただ一つの誇り」と鶴姫は言う。

 さて、黒田長政よりの関が原の戦いが1日でけりがついたとの報に 如水は天下取りの野望も絶たれ、鶴姫は如水をあざ笑いながら家臣に引き連れられてゆく。

第三幕 第二場 中津城・天守櫓土台前
 同年初冬、夕刻の中津城・天守櫓土台前、土台の柱を背に磔にされた白装束の鶴姫が浮かび上がる。柱の下には深い穴が掘ってある。土台の両側には篝火が焚かれ舞台上下に雑兵、家臣が居並び見守っている。

鶴姫は「妾が狙いはただ一つ、如水が天守櫓に登る度、胸に刃を突き立て、血を流さしめること」、「この天守櫓がある限り、そなたは妾を忘れることはできぬのじゃ」「女子一人殺すにいつまで手間取るぞ」といったので如水は「えい、その女を礎の下に築きこめい」と命ずると 鶴姫は柱ごと礎の下に掘った穴に落ち、姿を消した。

如水は「鶴姫、気高きそなたの墓なれば、世にも美しき天守櫓を築こうぞ」と誓った。

立ち尽くす如水の土に班雪、ふり止まず。
ー   幕   −

   

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